久米島の放射能調査報告:測定結果と地域への影響

この記事では、劣化ウラン含有弾の誤射事故に関する久米島での放射能調査を紹介しています。この調査には、筆者も分析機関にいた頃に参加しました。
この記事を通じて放射能に関する理解を深めていただければ嬉しいです。
劣化ウラン含有弾とは

劣化ウランは、原子力発電用の低濃縮ウランを作るために、天然ウランを濃縮する過程で生じる放射性廃棄物です。天然ウランに比べてウラン235濃度が低く、ウラン238濃度が高いことが特徴です。
ウランは密度が高い金属であるため、従来使用されていた鉛やタングステン等に代わり、産業において幅広く利用されています。アメリカなど一部の国では、戦車砲の徹甲弾や航空機関砲の弾丸として用いられています。
劣化ウラン含有弾とは、弾体として劣化ウランを主原料とする合金を使用した弾丸のことで、主に対戦車用の砲弾・弾頭として使用されます。

劣化ウラン含有弾の誤射事故

今から30年近く前の1995~1996年に、米軍が鳥島射爆撃場(沖縄県久米島町)で劣化ウラン含有弾を誤射する事故がありました。
劣化ウラン含有弾が対象物に炸裂すると、急激な燃焼によって酸化物の微粒子となります。これらの微粒子は大気中に浮遊し、風に乗って広く拡散します。劣化ウラン含有弾は人体にとって非常に危険です。
微粒子となったウランが呼吸を通じて人体に取り込まれると、腎障害や内部被ばくを引き起こします。

ウランは重金属で化学的毒性を持っているだけでなく、アルファ線を放出する放射性物質やから注意が必要やな。
久米島での環境調査
調査内容
久米島は、劣化ウラン弾の誤射事故があった鳥島からおよそ20km離れた位置にあります。人体にとって有害なウランの微粒子が、久米島まで風に運ばれて健康被害を引き起こす可能性がありました。
この事故を受け、久米島に劣化ウランの影響がないかを確認するための環境調査が、1997年から日本政府によって開始されました。調査開始から現在に至るまで、およそ年一回のペースで環境調査が継続して実施されています。
調査報告書が公開されていますので、以下にリンクを載せておきます。
以下、筆者が参加した令和3年度(2021年度)の内容に基づき記載しています。
久米島の調査では、環境サンプルとして、海水、海産生物(モズク)、土壌、大気浮遊じんが採取され、ウランの測定が実施されています。
海水、モズク、土壌でウランが検出
測定結果は、大気浮遊じんを除き、海水、モズク、土壌でウランが検出されています。
サンプル | ウラン235 | ウラン238 |
大気浮遊じん | 不検出 | 不検出 |
海水 | 1.6 (mBq/L) | 35 (mBq/L) |
モズク | 0.0056 (Bq/kg生) | 0.12 (Bq/kg生) |
土壌 | 0.56 (Bq/kg乾土) | 12 (Bq/kg乾土) |
これは劣化ウランなのでしょうか?

この情報だけでは判断でけへん。ウランはもともと自然界に存在する放射性物質やから、環境サンプルで検出されることは不思議じゃないわけや。
そのため、検出されたウランが、自然界にもともと存在するウランなのか、誤射事故に由来するウランなのかを確認する必要があります。
ここで、ウランの組成比に着目します。
検出されたウランは、劣化ウランなのか?
ウラン組成比をここでは、「(ウラン235の割合)/(ウラン238の割合)」と定義すると、天然ウランと劣化ウランのウラン組成比は、下表のとおりです。
天然ウラン | 劣化ウラン | |
ウラン235の割合 | 0.7 % | 0.2 % |
ウラン238の割合 | 99.3 % | 99.8 % |
ウラン組成比 | 0.007 | 0.002 |
次に、測定値のウラン組成比を計算します。
測定値から組成比を求める計算過程を以下に記載しています。少々難しい内容になりますが、ご興味ある方はご参照いただければ幸いです。)
●基本情報
ウラン235 | ウラン238 | |
質量数 | 235 | 238 |
半減期 | 7億400万年 | 44億7000万年 |
●測定値
サンプル | ウラン235 | ウラン238 |
海水 | 1.6 (mBq/L) | 35 (mBq/L) |
モズク | 0.0056 (Bq/kg生) | 0.12 (Bq/kg生) |
土壌 | 0.56 (Bq/kg乾土) | 12 (Bq/kg乾土) |
ウラン235とウラン238の組成比は、下記の式で計算できます。
ウラン235の「質量数」×「半減期」×「放射能」 / ウラン238の「質量数」×「半減期」×「放射能」
●測定値から計算した組成比
海水 | 0.0071 |
モズク | 0.0073 |
土壌 | 0.0073 |
測定値から計算したウラン組成比は、全てのサンプルでおよそ0.007となります。
測定値のウラン組成比が0.007に対して、天然ウランの組成比が0.007であることから、検出されたウランは天然由来であり、劣化ウランではないことが推定できます。

測定結果を考察するとき、測定値同士の比や別の測定値との相関関係を見るということはよく使われるテクニックやで~。
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