放射線はなぜ危険なのか?その桁違いの効果

この記事では、放射線がなぜ危険なのかについて解説しています。

放射線のエネルギーは、生体組織にとって災害レベルの脅威

生体組織は、数千種類の化合物や分子で構成されています。

元素としては、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、リンなど、化合物としては、タンパク質、アミノ酸、脂肪、糖など、これらによって生体組織は構成されています。

化合物を構成している原子同士は、化学結合でつながっています。

この化学結合を切断するには、「5~7 eV」くらいのエネルギーが必要です。

「eV」は、「electron volts」の略で「電子ボルト」と呼びます。eVはエネルギー単位の一種で、カロリーやジュールなど、他のエネルギー単位に換算することができます。

日常生活ではあまり用いられませんが、半導体や放射線といったミクロな世界のエネルギーの大きさを表すのに使用される単位です。

これに対して放射線は、「100,000~1,000,000 eV」程度のエネルギーを持っています。

これは生体組織の化学結合の「10万倍から100万倍」のエネルギーになります。まさに桁違いのエネルギーです。このエネルギーで切断できないものは、生体組織の中には存在しません。

エネルギーだけで見たら、生体組織の化学結合を「14,000個から100,000個」切断できる。実際はそこまで単純やないけど、イメージとして理解してくれた良いで。

生体組織は、ミクロなエネルギーで精密に秩序正しく機能しています。その生体組織にとって放射線は災害レベルの脅威といえます。

放射線はなぜ生物に致命的なダメージを与えることができるのか

放射線のエネルギーは、生体組織にとって桁違いのエネルギーを持っていることをお話しましたが、これだけでは放射線の危険性を説明しきれたとは言えません。

なぜ放射線は、生物に対してガンや急性死など、致命的なダメージを与えることができるのでしょうか?

それは、放射線のエネルギーが、生物に障害を引き起こすのに非常に効率よく作用するからです。これは他の形態のエネルギーと比べても明らかです。

どれくらい効率的なのか、身近なエネルギーである「熱エネルギー」と比較してみます。

人は「4グレイ」という量の放射線を浴びると、半分の人が数週間で死亡します。人を死に至らしめる放射線の量は、熱エネルギーで見たとしたら、どの程度になるでしょうか?

それは、体温を「0.001℃」上昇させる程度の熱エネルギーでしかありません。(計算過程を以下に示しています。ご興味ある方はご参照ください。)

4グレイ=4ジュール/キログラム=0.004ジュール/グラム

1グラムあたり0.004ジュールのエネルギー付与

1ジュール=0.24カロリーより、0.004×0.24=0.00096カロリー(≒0.001カロリー)

∴4グレイ=0.001カロリー/グラム

→ 生体組織を水と同じと仮定すると、0.001カロリー/グラムは生体組織1グラムを0.001℃上昇させるエネルギーに相当することが言えます。

半分の人を殺すことができる4グレイという放射線は、すべて熱に変わったとしても、たった0.001℃の体温の上昇しかもたらしません。上がったことすら気が付かないでしょう。

風邪を引いて発熱しただけでも、私たちの体温は数℃上がりますが、それに耐えることができます。

一方で、熱エネルギーで見るとたった「0.001℃」のエネルギーしか持たない放射線が、なぜ人を殺すことができるのでしょうか?

それは、発熱の場合、エネルギーが生体組織の全分子に均等に与えられるのに対して、放射線ではそうしたことが起きないからです。放射線の場合、エネルギーは極端に集中的に生体組織へ与えられます

放射線のエネルギーは、まず生体組織の一つの分子の電子に全て与えられて、電子は分子からたたき出されるんやけど、この電子はいかなる化学結合も切断する能力を持っていて、まるで「なだれ」のように、別の分子の電子をどんどんはぎとっていく。

参考文献

ジョン・W・ゴフマン著 『新装版 人間と放射線 医療用X線から原発まで』